真摯な情緒に満ちた豊かな自然美

美術雑誌「ユニベール・デザール」局長
パトリス・ド・ラ・ペリエール

長野県に生まれた大日方真氏は、写生展で特選を受賞したことをきっかけに、アート(特にデッサンと絵画)が自身の喜びと楽しみの源だと自覚するようになりました。13歳の時のことです。後に大学で美術部に所属するも、生計を立てるため就職を機に制作を一時中断せざるを得ませんでした。しかし1985年、出張先で描いた「万里の長城」が東京都美術館の美術展で入選したことから、再び絵画の道を行く決意をします。以降、仕事を続ける傍ら水彩画の制作にも熱心に取り組み、独自の画風を開拓します。デッサンの輪郭と絵具を巧みに操ることで得られる透明感、鮮やかな彩度と奥行が備わった仕上がりには感動を覚えずにはいられません。彼の風景画が卓越している所以は、そのクオリティーと感性、そして描かれている自然から溢れる真摯な情緒でしょう。2010年仏芸術協会トリコロール芸術大賞、2013年日本美術評論家大賞といった数々の賞を受賞したのも当然のことです。大日方氏は各種のグループ展もさることながら、2016年にパリのエチ エンヌ・ドゥ・コーザン・ギャラリーで、2019年にはニューヨークのジョージ・ビリス・アートギャラリーで個展も開催されました。

大日方氏の力強い作風には、情景や自然と向き合った時に彼が感じる全てが投影されています。構図はそれぞれの作品ごとに念入りに考えられ、キャンバスにちりばめられた繊細なニュアンスは作品全体に生き生きとした煌めきを与えます。印象派の余韻を残すアーティスト・大日方画伯にとって、自然とは何よりもまず、尽きることのないインスピレーションの泉であり、作者と観者の双方にとって興味深い発見に満ち溢れた恵みです。強調したり和らげたりしながら色を重ねていく作業は、作品に鮮明かつ濃厚な風合いを与え、画伯の感受性を見事に体現しています。これは間違いなく、人生とそれを成す物に対する彼なりのビジョンを表しており、画伯は感じたことをありのままに、そして直感的に作品に反映させているのです。画伯はモチーフを絵画で表現するというよりもむしろ、そこに垣間見える「知っていると思っていた未知の何か」を再発見する喜びを観客に堪能させようとしているようです。

大日方真画伯にとって芸術とは、可能性の全てが実現できる場であり、彼を天職へと導いたその熱意と情熱は心の奥底に絶えず温存されていたのでした。

精力的な芸術家。紛れもない自然の歌い手。大日方真氏の絵画世界は、今後も個展などで我らを魅了し続ける事でしょう。